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今月25日公開の映画『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(製作:東宝/アスミック・エース)は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの脚本家、宮藤官九郎が約2年ぶりに自らメガホンを取った話題作です。修学旅行のバス事故で地獄に堕ちてしまった高校生・大助(神木隆之介)が、現世に転生するために赤鬼・キラーK(長瀬智也)の過酷な“鬼特訓”に挑むという【超絶地獄コメディー】。キラーK率いる地獄専属ロック・バンド、“地獄図(ヘルズ)”による同タイトルの主題歌(作詞はもちろん宮藤官九郎!)も話題の痛快エンターテインメント作品です。

そこでAvidは、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』の音響制作を手がけたお三方にインタビュー。非現実空間=地獄を舞台に、音楽が大きくフィーチャーされたこの作品のサウンドはどのように作られたのか、お話を伺ってみることにしました。取材に応じてくださったのは、録音を担当した藤本賢一氏、音響効果を担当した岡瀬晶彦氏、ミックス/ダビングを担当した小林喬氏(東映株式会社デジタルセンター)の三氏です。

TOO YOUNG TO DIE!

『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』 © 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

“地獄感”を演出するため、役者さんの悲鳴を録音してバックグラウンドで使用

——— 今作は宮藤官九郎監督の約2年ぶりの映画作品ですが、最初に監督から何か話はあったのでしょうか。

藤本 あの監督は自分からそういう話をする人ではないんですよ。監督が考えていることをぼくらが読み取らないといけないんです。“ここはこういう感じでいきましょうか?”と訊くと、ぼそぼそっと反応してくれるので、そこから監督の意向を読み取る(笑)。でも今回はロック・ムービーということで(ロック好きの)自分が呼ばれたと思ったので、特に不安な点はなかったですね。スケジュールがかなりタイトだったので、監督がおもしろいと感じたことをもれなく録音する方が大変でした(笑)。

——— イメージと違って、静かな監督なんですね。

藤本 いや、全然静かではないですよ(笑)。イメージどおりの人だと思います。ただ、上からガーッとものを言う人ではなくて、凄く腰が低い人なんですよ。舞台ではけっこう怖いらしいんですけどね。それとあの監督は人をのせるのが凄く上手い。現場で監督に接すると、スタッフ全員、“この監督のためだったらもっと頑張っちゃおう”と張り切ってしまうんです。

——— 撮影はいつ頃スタートしたのですか?

藤本 去年(2015年)の5月下旬ですが、今作の重要な要素である音楽に関しては、2月から録音は始まっています。撮影で流す音楽は、先に作っておく必要があったので。ライブのシーンとかは音楽が出来上がってないと役者さんが動けませんからね。でも監督は舞台の人なので、できれば音楽も現場で一発録りしたかったと思うんですよ。勢いに任せてワーッって。でも映画ではカット割があるので、さすがにそれはできませんでした。

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写真向かって左から、サウンド・エンジニアの小林喬氏(東映株式会社デジタルセンター)、録音の藤本賢一氏、音響効果の岡瀬晶彦氏

——— 藤本さんの録音システムについておしえてください。

藤本 メインがSound Devicesの8chレコーダー 788で、サブがローランドの4chレコーダー R-44。ワイヤレスはLectrosonicsを6波とRAMSAを2波持ち込んだんですが、今回RAMSAの出番はほとんどなかったですね。HAはレコーダー内蔵のものを使用しているので、システムとしては凄くシンプルです。録りのフォーマットは24bit/48kHzですね。

——— 地獄を舞台にした映画ということで、録音に関してはいつもと違う点はありましたか?

藤本 ぼくは録音ってマイク勝負だと思っているんです。ガン・マイクで収音して、足りない部分をワイヤレスで補うというのが基本。でも今回は舞台が地獄なので、ガン・マイクで録った音が何か映像に合わなかったんですよ(笑)。ガン・マイクが拾うアンビエンスが、地獄には気持ち悪くて合わない。だから今回はこれまでで一番ワイヤレスを足しているかもしれないですね。優秀なスタッフが上手くワイヤレスを(役者さんに)仕込んでくれたので、ガサがまったく入りませんでした。だから後で足すのはとてもラクでしたね。

岡瀬 役者さんは動き回るので、普通だったらガサが凄いんですよ。

小林 特に今回の作品は衣装が変わっているので、いつもどおりに仕込んでいたら多分使いものにならなかったのではないかと思います。

藤本 今回個人的に一番おもしろかったのが、ギター・バトルの録音。先ほど、音楽は撮影が始まる前に録音したと言いましたが、後から合わせるのが難しいシーンに関しては、音楽も現場で一発録りしているんです。中でもCharさんと野村義男さんのギター・バトルの録音はおもしろかったですね。

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自身の作業場での藤本氏。奥のディスプレイには、Pro ToolsとiZotope RXの画面が表示されている

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自身の作業場で、インコの鳴き声を録音する藤本氏。かなり苦労したとのこと

——— 普通の映画で、一流のミュージシャンの生演奏を録音する機会なんてなかなかないですよね。

藤本 ないですよ。だから今回の現場ではそれが一番楽しみでした(笑)。

撮影に入る前に、音楽の録音現場を見せてもらったんですが、それがとても興味深い経験だったんです。音楽の録音は小西康司さんが担当しているんですが、D.S.King(ディストーション・エフェクター)という秘密道具を持ち込んだりしていて。同じ録るのが仕事でも、映画と音楽ではやっていることはかなり違うなと。それで小西さんと話をしているうちに自分でもやってみたくなって……(笑)。普通だったら、一流のミュージシャンの演奏を録音する場合は、怖いので小西さんのようなレコーディング・エンジニアにお願いするんですけどね。

——— ギター・バトルのシーンはどうやって録音したのですか?

藤本 普通にSound Devicesで(笑)。最初ラインで録ろうかなと思ったんですが、野村さんが“ラインの音なんて本物のギターの音じゃない”とおっしゃるので(笑)、お二人ともエフェクターを通ってアンプから出た音をマイク3本くらい立てて録りました。マイクはShure SM57とSennheiser MD421-IIを使い、二人の音が被らないようにアンプを離してもらって。SM57とMD421-IIを使ったのは、小西さんが“ギターの録音は結局、SM57とMD421-IIが一番”とおっしゃっていたからですね(笑)。

残念だったのは、午前中のリハーサルのときはもの凄く良い音だったんですけど、午後の本チャンではなぜか音がこもってしまったこと。リハーサルのときの野村さんのギターなんて、もう鳥肌もののカッコいい音だったんですよ。でも本チャンでは、アンプやエフェクターの電源を入れるタイミングが悪かったのか、あるいはどこかで接触不良が起きてしまったのか、なぜかこもった音になってしまって……。でも現場はどんどん進んでいくので録り直しがきかなかった。それが少し残念でしたね。

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——— その他に今作ならではの録音はありましたか?

藤本 地獄では、そこかしこで拷問が行われているわけですよ。だからバックグラウンドで使う“ヒャ〜”とか“ギャ〜”という悲鳴があった方がいいんじゃないかと思って(笑)、撮影中に役者さんに協力してもらい、別の場所で録音しました。メインのSound Devicesは現場で使っているので、ズームのH6を使って。結局、役者さん十数人に協力していただいたんですが、皆さん悲鳴が上手いんです(笑)。途中で監督が心配して、“一体何をやってるんですか?”と覗きに来たくらい(笑)。でもいざその悲鳴をバックグラウンドに貼ってみると、ちょっと邪魔というか、うるさい感じがしたんですよ。だからこの悲鳴は、実際に拷問されている人が映っているシーンだけでいいかなと思っていたんですが、後でプリ・ミックスを覗きに行ったら、ほとんどのシーンでガンガンに使われていて(笑)。

小林 最初は静かなシーンには(悲鳴を)貼ってなかったんですよね。でも作業が進むうちに、監督の“地獄感”がエスカレートしてきて(笑)。あの悲鳴は、映像よりも広い空間を演出する上でとても有効でしたね。

岡瀬 悲鳴がなくなると何か寂しく感じちゃうんだよね(笑)。

——— 振り返って、今作の録音は大変でしたか?

藤本 いや、台詞を録る分には同じですし、基本的にはいつもと一緒です。強いて言うならスケジュールですね。本当にスケジュールがタイトだったので、それが一番大変でした。現場はとにかく時間がないと言っているのに、監督はそんなこと関係なく途中で絵コンテを書き換えたり(笑)。絵を描くのが楽しかったのか、どんどん絵コンテが増えていくんです(笑)。でもカメラマンの相馬(相馬大輔氏)は凄く能力があるので、絵コンテが急に変わってもしっかり対応するんですよ。しかしこっちは大変(笑)。録音の良し悪しとか考える暇もなく、能力のある監督とカメラマンに引きずられて録った感じですね。

効果音やフォーリーは、無指向のマイクを2本使ってオンとオフで録音

——— 今回の作品、効果音やフォーリーはやりがいがあったのではないですか。

岡瀬 やりがいはありましたね。

小林 特殊なシーンが多いので、頭を悩ませる作品でもありましたけど(笑)。

岡瀬 あとは先ほど藤本も言ってましたけど、とにかく時間がなかった。普通の作品ですと効果音のフォーリーは6日やることが多いんですが、今回は大変な作業になることは分かっていたので、最初に10日間くださいとお願いしていたんですよね。でも予算の関係で7日間でやってくれということになり、実際は録り切れなくて結局8日間かかりました。7日目と8日目は朝までやっていたので、時間的には10日間やったのと同じくらいですね(笑)。けど正直、それでも足りないくらいでした。

——— 岡瀬さんの場合、まずは映像と同じ音を録るのですか?

岡瀬 そうですね。まず、その素材のリアルな音を録ります。例えば今回、投げられたシンバルが人に命中して首が吹っ飛ぶというシーンがあるんですけど(笑)、そういう場合もまずは実際にシンバルを投げて音を録りました。そしてリアルな音がはまらない場合は、素材と違うものを探して録音していくという感じですね。

今回よかったのは、撮影で使用された小物をほとんどお借りできたこと。リスト・アップしたらもの凄い量になってしまったんですけど(笑)。ギターやベースなんかも10本以上お借りしたと思います。楽器は演奏に使うだけでなく、例えばベースで殴り合ったりとかそういうシーンもあるんですよ。だから壊れてもいい楽器も用意してもらって。今回の作品は衣装や履物も普通ではないので、そういうものも全部お借りました。

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——— 岡瀬さんの録音システムについておしえてください。

岡瀬 レコーダーはAvid Pro Tools|HDXシステムで、オーディオ・インターフェースはAvid Pro Tools|HD I/O。マイクに関してはぼくの場合、オンとオフで必ず2本使うんですよ。マイクは無指向のDPA 4006Aで、HAはGML 2032とFocusrite Liquid Channelですね。本当は両方ともGML 2032にしたいんですけど高いので(笑)。録音フォーマットは24bit/96kHzです。

こういった作品ですと普通、ガン・マイクで録るのがセオリーだと思うんですけど、無指向のマイクを使ったのはその方が音が痛くないからです。ガン・マイクで録るとアタックのピークはあるんですけど、音の力は意外となかったりしますから。今回の作品では登場人物が巨大化するシーンがあるんですが、そういうところではマイクを3本、LCRで加えたりしていますね。

それとぼくの場合、電源は200Vで録ります。HAだけでなく、Macやオーディオ・インターフェースも全部200V。その方が太くて柔らかい音が録れるんですよ。だから200Vのトランスを2台持って来て……。某映画会社のスタジオですと、壁から200Vが出ているので、すぐに録れるんですけどね(笑)。

——— フォーリーはどのように録音したのですか?

岡瀬 何人かの人に演じてもらうのが普通だと思うんですが、ぼくは去年から全部一人でやっているんです。でも、少し前に腰を悪くしてしまって、今回は女性のフォーリーのために一人お願いしました。実際の録音は、32インチくらいのモニターに映像を表示して、それを見ながら演じて録っていきます。

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『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』 © 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

——— フォーリーや効果音の録音時のレベルはどんな感じですか? マージンはけっこう残すのでしょうか。

岡瀬 いっぱいいっぱいで録る人もいると思うんですが、ぼくの場合、録り音は小さめです。経験上、波形が大きいほど音が良くないような気がして……。でも今回はいつもよりも大きめで、レベルとしては普通だったかもしれませんね。

小林 岡瀬さんはHAのゲインを最初に決めたら、その後はあまり動かさないですよね。

岡瀬 小さい音はもちろん上げるけどね。でも基本はあんまり触らない。理想を言えば、GMLのEQがもの凄く良いので、それを触りながら録れればベストなんですけど。でも、それを一人でやるのは大変なので、自分と同等の技量を持った人を雇わないと……。小林くんがやってくれればいいんですけどね(笑)。

藤本 その後ミックスがあるのに、8日間も服の衣摺れとか聴いてられないよ(笑)。助手でも雇ったら?

岡瀬 いや、やっぱり分かってる人じゃないと無理。海外だとフォーリー・アーティストとフォーリー・ミキサーがペアになってやるんですけど、日本の映画は予算がないですからね。

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フォーリー録音時には、実際に撮影で使用された楽器が大量に用意された

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撮影で使用されたギター

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劇中で鍵となるギターのコード(Hコード)音を録音している様子。4人がかりでないと押さえられない複雑なコードだったとのこと

——— フォーリーや効果音の録音では突発的なスパイクが生じることもあると思うのですが、入力段でリミッターは使ってないのですか?

岡瀬 ピークを抑えるために、Pro ToolsAvid Dynamics IIIをインサートしています。ただ、GMLを使って96kHzで録ると、ほとんど歪みの心配はないですね。昔は強い音が入ると音が壊れてしまうこともあったんですけど、GMLを使って96kHzで録り始めてから、そういう経験はないです。

——— 録音が8日間にも及ぶと、収録した素材の数は膨大だと思うんですが、Pro Toolsのセッション・ファイルは録音日や音の種類によって分けるのですか?

岡瀬 基本的にセッションは1つです。おっしゃるとおり録る音の数は膨大なので、スタジオに入る前に5日間くらいかけて、どうやって録っていくかじっくり検討するんですよ。カテゴリーごとにトラックを作っておき、靴の音だったらそれだけをどんどん録れるようにしておく。上手くトラックを作れば、1つのセッションの中でもまったく問題ないですね。最終的にトラックの数は膨大になりますけど。逆にセッションを分けてしまうと後が大変。

——— フォーリー録音時の注意点があればおしえてください。

岡瀬 足ですね。派手な動きをしたり、履きなれない靴を履いたりするので、気をつけないと足を痛めてしまうんですよ。足を痛めてしまったら、後の作業ができなくなってしまいますから。少し前に手がけた映画、それはポルノ作品だったんですけど、靴のヒールがめちゃくちゃ高くて(笑)。最後の方は、これ以上やったら足を痛めてしまうなという感じでした。映像に合わせてやると、激しいシーンだと自然と激しい動きになってしまいますからね。録音途中に救急車で運ばれた人もいますし、本当に気をつけないと。

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パンニングでは定位そのままに動かせるIOSONO Anymix Proが活躍

——— スタジオで録音した素材は、作業場に持ち帰って加工するわけですか?

岡瀬 そうです。単に録っただけでは映像にはめても合ってないので、それを助手と一緒に1つ1つ合わせていく。そして合わせながら振るものは振っていく(パンを決めていく)という感じですね。

——— 定位も岡瀬さんの方で作ってしまうんですね。

岡瀬 ダビングではバランスやEQ処理などに時間がかかりますから、パンニングはぼくのところで作ってしまうんです。そうしないと、この部屋(東映デジタルセンターのダビングステージ、“DUB1”)を3〜4週間くらい借りなければならなくなってしまう(笑)。パンニングに関しては今回、IOSONO Anymix Proも活躍しましたね。

小林 ダビングの段階では、岡瀬さんが作った定位を元に、他の音との整合性を取りながら微調整していく感じですね。

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IOSONO Anymix Pro

——— 岡瀬さんが作業場で音を加工する段階では、映像は出来上がっているんですか?

岡瀬 ぼくの作業は、基本的に映像とロックした状態でスタートします。そうしないと後が大変なので。もちろん後で映像が変わることはあるんですけどね。途中でCGとかが入ってくることがありますから。でもなるべく映像が最終形になった段階で作業を始めるようにしています。

——— 岡瀬さんが行ったPro Tools内での音処理についておしえてください。

岡瀬 今回、ぼくが録音した音はほとんど加工しました。リアルな音はほぼないです(笑)。音処理に関しては基本プラグインを使って行い、アンビエンスに関してはWaves R360 Surround ReverbとAudio Ease Altiverbを多用しましたね。どちらかが常にかかっています。

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Waves R360 Surround Reverb

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Audio Ease Altiverb

——— 今回は舞台が地獄ですが、AltiverbではどのようなIRを使用したのですか?

岡瀬 いつもだったら自分で現場のIRを録って使うんです。今回も一応、撮影現場のIRを録ってみたんですが、案の定あんまり良くなかったので(笑)、プリセットや過去に録ったIRを使用しました。残響は1秒くらいですかね。

小林 残響は最初、もっと長めだったんですけど、監督に聴いてもらったら“地獄はこうじゃないよね”的な反応だったので(笑)、短くなりましたよね。

——— その他のエフェクトというと?

岡瀬 今回の作品では、登場人物が大きくなったり小さくなったりするんですけど、巨大化するシーンではWavesのサブ・ハーモニック・シンセサイザー、LoAirが活躍しましたね。低音を加えることで巨大感を演出したんです。

あとは台詞のエフェクトですよね。遠くまで飛んでいくようなところでは、WavesのH-Delayでエコーを付けたりとか。今回、プラグインは効果音よりも台詞の方が多用しているかもしれません。エコーだけでなくピッチを変えたり。

小林 登場人物が動物になったり、ありとあらゆることが起こる映画なので、そういった変化はプラグインで表現しましたよね。

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Waves LoAir

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Waves H-Delay

藤本 今回は予算が潤沢ではなかったので、映像もVFXとかが使えず、紙に描かれた炎が使われたりしているんですよ(笑)。でも、その安っぽい感じがまた良かったりして。だからぼくもコルグ KAOSS PADのようなチープなエフェクターを使って、キュイーンとかやったりしたんですけど、小林くんには“何かしょぼいっすね”と言われてしまいました(笑)。最終的にはまったく使われませんでしたね(笑)。

小林 いやいや、監督が“普通の方がいい”ということだったので……(笑)。だから結果的にそんなに派手な加工はしていないですね。

岡瀬 確かにどんどん普通の方に収まっていったというのはあるね。監督は最初、“普通じゃない方がいい”とかおっしゃっていたんですけど(笑)。

藤本 収める方を選んだという感じだよね。どんな映画でもそうなんですよ。最初は派手にいろいろなことをやるんですけど、繰り返し見ていると、“ちょっとやり過ぎかな”と感じて、どんどん収める方にいってしまう(笑)。

小林 逆に音楽のレベルはどんどん大きくなっていきましたけどね(笑)。

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——— ピッチ・シフトはどんなプラグインで?

岡瀬 Waves SoundShifterやSerato Pitch’n Time ProといったところをAudioSuiteで使います。本当に特殊な加工をする場合は、Eventide H3000 Factoryとか複数のプラグインを何段も重ねたりとか。

小林 ピッチ・シフトはプラグインによって本当にかかり方が違うので、いろいろ試して一番良いものを使う感じですよね。

岡瀬 今回は使ってないんですが、Eventide H8000が置いてあるスタジオで作業する場合は、録音時にピッチ・シフトしてしまうんですよ。ピッチを上げたり下げたり、その場で加工して録ってしまう。例えば音を重くしたり、軽くしたり、柔らかくしたりといった加工がH8000だと簡単にできてしまうんですよね。

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Eventide H3000 Factory

ミックスは台詞を中心に、頭のシーンから順々にバランスを作っていく

——— プリ・ミックスは、どんな感じで行われたのでしょうか。

小林 ここ(東映デジタルセンターのダビングステージ、“DUB1”)で、ぼくと岡瀬さん、ミュージック・エディターの浅梨さん(浅梨なおこ氏)の3人で行いました。

Pro Tools|HDXシステムは、台詞と音楽用に64ch出力のシステムが1台、岡瀬さんの効果音とフォーリー用に128ch出力のシステムが2台、そしてミュージック・エディット用のシステムが1台、計4台使用しました。

岡瀬 ぼくのPro Toolsは、1台がフォーリー専用マシンで、もう1台がそれ以外の音用という使い分けですね。合計256ch出力ですが、全部は使い切ってません。

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東映デジタルセンターのダビングステージ、“DUB1”

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コンソールは、72フェーダー/Hybrid仕様のAvid System-5が導入されている

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“DUB1”のマシン・ルーム。向かって左側のラックにPro Toolsのコンポーネント、右側のラックにSystem-5のコンポーネントを収納

——— 台詞と音楽は同じPro Toolsで扱うんですね。

小林 音楽に関してはチャンネル数が膨大なので、プリ・ミックスの前段階で5.1chが2本、5.0chが1本、計3本のステムにまとめたんです。一度整理してからステムとして台詞用のPro Toolsセッションにインポートした形ですね。

岡瀬 台詞と音楽を別々のPro Toolsで扱うと大変ですからね。

——— プリ・ミックスでは各チャンネルのバランスを細かく決めていくのですか?

岡瀬 そうですね。台詞を中心にバランスを作っていく感じです。台詞を決めて、音楽を決めて、効果音を決める。それを頭からシーンごとに順々にやっていくんです。定位もその中で作り込んでいきます。

小林 そしてプリ・ミックスが出来上がった段階で一度、監督にチェックしてもらいます。

——— プリ・ミックスで出来上がったものをオーディオとして書き出すこともあるのですか?

小林 いや、プリ・ミックスで作るのは、あくまでもPro Toolsのオートメーション・データであり、その段階では録音はしません。人によっては一部ステムとして録ってしまうこともあるのかもしれませんが、ぼくは録音はしないですね。

——— 今作のミックスで、特に気をつけた点というと?

小林 距離感ですかね。台詞に関しては基本センター定位なんですけど、オフ感を出すためにダイバージェンスを入れたり、Avid D-Verbで残響を加えたり。今回はシネスコなので、奥行き感と左右の広がり感というのは特に意識しました。できるだけ広く使ったというか。

岡瀬 映像に合った定位になっているよね。

小林 その辺りは気をつけたところですね。メイン・キャストだけでなく、後ろの亡者に関しても。パンニングで活躍したのがAnymix Proで、あのプラグインを使うと5.0chの音源を定位そのままで動かすことができるんですよ。それを普通にやると大変なんです。あと飛び道具的にAvid TL AutoPanも使いましたね。バスがグルグル回って落ちるシーンとかに。

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——— 他にはどんなプラグインを使いましたか?

小林 リバーブはAltiverbを基本に、もっと音を加工したいときはAvid ReVibe IIを使ったりと、シーンによっていろいろ使い分けましたね。

それと地獄の雰囲気を演出する際に活躍したのが、H3000 Factory。ディレイのプログラムを使って、後ろの音が少し遅れてなるようにすることで、空間の大きさを演出することができるんです。地獄全体にえんま様の声が響いている感じとか。でも、やり過ぎるとメインの台詞を邪魔してしまうので、ディレイ・タイムを細かく調整して。ディレイに関しては、H-Delayもよく使いました。

あと今回、初めてAvid Heatを使ってみたんですよ。カラコレが終わった後に聴いてみたら、ちょっと音が硬くてキラキラした印象だったので、気持ち角を落としたいなと思って。いろいろ試してみたら、EQでやるよりもHeatの方が自然だったので、使ってみることにしたんです。音楽やフォーリーには使用せず、台詞だけに使ったんですが、角がほどよく丸まって良かったですね。最初はやり過ぎてしまったんですけど(笑)。

——— ミックスで苦労した点というと?

岡瀬 最後の方にバトル・シーンがあるんですけど、そこでいかに爆音を出すかというのは苦労しましたね。途中の音楽も爆音で鳴っているんですが、最後のバトル・シーンではそれ以上の爆音を出さなければならない(笑)。そのシーンだけを聴いていると、どれだけの爆音か分からないので、30分くらい前から聴き始める必要があったんです。

小林 確かに全体のバランスを取るのは大変でしたね。どこにピークを持っていくかという。

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『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』 © 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

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『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』 © 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

——— 長いインタビューになってしまいましたが、最後に今回の作品の音響面での聴きどころをおしえてください。

藤本 個人的にはやっぱりライブのシーンですね(笑)。最近は予算が少ないので既製の音源を使うことが多いと思うんですけど、今回はちゃんとバンド演奏を録音しているので、やはり音のパワーはありますよね。後々パッケージ化することを考えたら、演奏のミスしている部分とか修正するのが普通なんでしょうけど、監督が舞台出身の方なので、そういう部分もそのまま残っているんです。非常にパワーのある映画に仕上がっていると思いますね。

岡瀬 ただハチャメチャな映画ではないんだよね。

小林 役者さんが裏で細かいことをやっていたりとか(笑)。だから何度も見ていただけるといろいろ発見があっておもしろいと思います。

岡瀬 ぼくらもいろいろなことをやってるので、どこを聴いてほしいというのが難しい(笑)。最初から最後までずっとクライマックスのような映画なんですけど(笑)、もう全部聴いてほしいですね。

小林 本当に休む間のない映画ですよね。ぼく、ダビングが終わった後、倒れましたから(笑)。

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